大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島地方裁判所 平成4年(わ)259号 判決 1992年12月28日

本籍

広島県山県郡筒賀村大字中筒賀四八五番地

住居

広島市中区江波本町七番三五号

会社役員

鵜野正春

昭和九年四月一九日生

本籍

広島県山県郡筒賀村大字中筒賀四八五番地

住居

広島市中区江波本町七番三五号

会社役員

鵜野弘子

昭和一七年一一月二八日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官髙山悦子、弁護人内堀正治各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人鵜野政春を懲役一年二か月及び罰金二、〇〇〇万円に処する。

被告人鵜野弘子を懲役一年に処する。

被告人鵜野政春に対し、右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

被告人両名に対し、この裁判確定の日から各三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人鵜野政春は、広島市中区江波南一丁目三二地二二号において、鵜野商店の名称で水産加工卸業を営んでいたもの、被告人鵜野弘子は、被告人鵜野政春の妻で、同商店の従業員として、その経理事務を担当していたものであるが、被告人両名は、共謀の上、被告人鵜野政春の所得税を免れようと企て、架空仕入れを計上するなどして所得の一部を秘匿した上、

第一  昭和六三年分の実際の総所得金額が一億三、四二二万五、八二八円で、これに対する所得税額が六、九六九万八、八〇〇円であるにもかかわらず、平成元年三月一五日、広島市中央区加古町九番一号所在の当時の広島西税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が五、一〇三万八、七二〇円で、これに対する所得金額が一、九八五万五、三〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、正当な所得税額との差額四九八万三、五〇〇円の所得税を免れた

第二  平成元年分の実際の総所得金額が一億六〇二万一、九三一円で、これに対する所得税額が四、五二八万二、一〇〇円であるにもかかわらず、平成二年三月一五日、前記広島西税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が五、〇〇一万五、二八〇円で、これに対する所得税額が一、七三六万一、一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、正当な所得税額との差額二、七九二万一、〇〇〇円の所得税を免れた

第三  平成二年分の実際の総所得金額が四、五二〇万七、九二九円で、これに対する所得税額が一、五四四万七、八〇〇円であるにもかかわらず、平成三年二月二八日、前記広島西税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が一、三八六万三五八円で、これに対する所得税額が七六万七、〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、正当な所得税額との差額一、四六八万六八万八〇〇円の所得税を免れた

ものである。

(証拠の標目)

判示全事実について

一  被告人両名の当公判廷における各供述

一  被告人鵜野政春の検察官に対する供述調書五通(検三七ないし四一号)

一  被告人鵜野弘子の検察官に対する供述調書七通(検三〇ないし三六号)

一  三島良登(二通、検一・二号)、恵南秀雄(検三号)、頓所郁宏(検四号)、山根聡美(検五号)及び田森優利(検六号)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の売上金額調査書(検一一・二〇号)、仕入金調査書(検一二号)、福利厚生費調査書(二通、検一三・二四号)、未払事業税調査書(検一四号)、貸倒引当金繰戻額調査書(検一五号)、貸倒引当金繰入額調査書(検一六号)、青色事業専従者給与額調査書(検一七号)、青色申告控除額調査書(検一八号)、白色事業専従者控除調査書(検一九号)、修繕費調査書(検二一号)、消耗品費調査書(検二二号)、減価償却費調査書(検二三号)、利子割引料調査書(検二五号)、配当所得調査書(検二六号)、雑所得調査書(二七号)、社会保険控除調査書(検二八号)及び源泉徴収税額調査書(検二九号)

判示第一の事実について

一  押収してある鵜野政春の昭和六三年度分確定申告書(平成四年押第七〇号の3)

判示第二の事実について

一  押収してある鵜野政春の平成元年度分確定申告書(平成四年押第七〇号の2)

判示第三に事実について

一  押収してある鵜野政春の平成二年度分確定申告書(平成四年押第七〇号の1)

(法令の適用)

一  罰条

被告人両名について、いずれも刑法六〇条、所得税法二三八条一項、被告人鵜野政春について、さらに同法条二項

二  刑種の選択

被告人鵜野政春について、いずれも懲役刑と罰金刑の併科を選択

被告人鵜野弘子について、いずれも懲役刑を選択

三  併合罪の処理

(1)  懲役刑について

被告人両名についていずれも刑法四五条前段、四七条本文、一〇条により、それぞれ犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重

(2)  罰金刑について

被告人鵜野政春について、刑法四八条二項により、各罪所定の脱税額の合算額の範囲内で処断

四  執行猶予(懲役刑)

被告人両名について刑法二五条一項

五  労役場留置

被告人鵜野政春について刑法一八条

(量刑の理由)

本件は、牡蛎の仲買業を鵜野商店の名称で個人で営んでいた被告人鵜野政春が、妻の被告人鵜野弘子と共謀の上、被告人鵜野政春の昭和六三年分から平成二年分までの所得について三年分合計九、二四四万五、三〇〇円の所得税の支払いを免れたという所得税法違反の事案である。被告人らは、あらかじめ所得を過少に申告するために、架空の仕入れを計上して利益を圧縮し、また現金での仕入を帳簿から除外するなどの方法で脱税行為をしていたもので、犯行の態様は悪質である。本件行為により三年分合計一億七、〇五四万一、三三〇円の所得を隠し、前記のように九、二〇〇万円余りの所得税を免れたもので、その金額はいずれも非常に多額であり、その意味で結果を軽視することはできない。被告人鵜野政春は、本件当時、鵜野商店の代表者として、被告人鵜野弘子に経理の事務を任せていたものの、被告人鵜野弘子が、架空仕入れの計上などにより脱税行為をしていることを十分に認識しており、被告人鵜野弘子も、被告人鵜野政春の妻である上に経理事務を担当し、架空仕入の計上などの行為を実際に行なっていたもので、被告人両名は、本件脱税行為について、いずれも主体的に行動しており、その刑事責任は、いずれも重いものと認められる。その動機も、要するに財産を残したいという利己的なもので、酌量の余地はない。

しかしながら、被告人両名は、現在では本件について深く反省しており、今後はこのような脱税行為をしない旨誓約していること、本件犯行の状況については、その一切を認め、修正申告をし、重加算税や延滞税も含めて、三年分合計一億七〇六万五、八〇〇円を納税していること、被告人両名は、いずれも本件を除いては、仕事を真面目にして、働いてきたことなど被告人に有利に酌すべき事情も認められる。

そこで、当裁判所は、右のような被告人に有利に斟酌すべき事情を考慮し、今回は被告人両名を執行猶予に付するのが相当とし思料した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 若園敦雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例